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T-QARD memberより研究成果出版

Authors : T-QARD administrators

2 Mar. 2018

"Deep Neural Network Detects Quantum Phase Transition" J. Phys. Jpn. 87 033001 (2018)

Shunta Arai, Masayuki Ohzeki, and Kazuyuki Tanaka

温度が下がると水は液体から個体の氷になる. 小学校の理科の授業で習うこの現象がなぜ起こるのか, 一度は考えたことがあるはずだ. 中学生になると水は分子と呼ばれるものからできており, 分子同士の結びつきが変わることによって水の状態が変化することを知る. 物体がとる均質な状態のことを相と呼ぶ. 

理科の実験で氷をビーカーに入れて, 熱すると0度で固体から液体になり, 100度を超えると液体が気体になるという実験をしたことがあるだろう.  人間は水が0度で固体から液体へ, 100度で液体から固体へと姿が変わることを実際に観察することで理解できる. 固体が液体になり, 液体が気体になるような相の変化のことを相転移と呼ぶ.

相転移は磁石においても発現する. 磁石はいつも鉄などをくっつけると思うが, 実はそうではない. 磁石は温度を上げると, くっつかなくなってしまうということを知っているだろうか. 磁石が鉄などの金属を引き寄せる力を持つ状態を強磁性と呼び, その力を失った状態を常磁性と呼ぶ. 磁石は小さな磁石が集まってできており, その小さな磁石一つ一つにN極S極の向きが存在している. この小さな磁石のほとんどが同じ向きを向いている時に磁石は金属などを引き寄せる力を持つ. 温度が低い時, 小さな磁石は周りと同じ向きを向きたがる. だんだん温度を上げていくと熱ゆらぎにより, 小さな磁石は周りの影響よりも, 自分勝手に振る舞う力が大きくなり, バラバラの向きを向くようになる. みんながバラバラだから磁石はくっつかなくなってしまう. 身近に存在する磁石の力の起源の簡単な説明のために用いる、この小さな磁石のことをスピンと呼び, 上向きを+1下向きを-1として、モデル化したものをイジングモデルと呼ぶ. このモデルの研究を通して、磁石の性質の急激な変化である相転移が、どの程度の温度で発現するのか、それを人間はこれまでの数学的な知見や解析手段を通じて調べることができる.

 

では人間と同様に 機械も相転移を検出できるだろうか.これが今回の論文のメインテーマである.

人間の脳を模した機械学習の技術でニューラルネットワーク呼ばれるものがある. この技術を用いると、犬や猫の画像を入力で与えて出力として犬か猫か当てる機械を作ることができる.本論文ではニューラルネットワークを使って一次元の横磁場イジングモデルの量子相転移を事前知識を与えずに相転移が発現する条件を検出できることを示したものだ. 横磁場イジングモデルは量子アニーリングの基礎となる重要なモデルである.

通常のイジングモデルでは極低温の場合熱揺らぎがないため,スピンは上向きならずっと上向き, 下向きならずっと下向きと観測されるが, 量子揺らぎをもたらす横磁場を加えることによって, 極低温でもスピンは何回観測してもバラバラになる量子揺らぎを導入することができる. 横磁場を徐々に小さくしていくことによって, スピンはバラバラの状態から段々と向きが揃っていく. 相転移が発現する.このように量子揺らぎによってもたらされる相転移を量子相転移と呼ぶ.

 

それでどうやってニューラルネットワークを用いて量子相転移を検出させるのか. 簡単に紹介しておこう.ニューラルネットワークを学習するためにはまず入力と対応する出力結果が記されたデータが必要である.そのため実際に量子揺らぎによってもたらされるスピンの状態の大量の事例を用意する必要がある.量子揺らぎの強さを入力として、スピンの状態を出力とするデータセットの用意を必要とする.しかしながら極論すれば、それだけで良い.

問題は量子揺らぎを導入したデータセットの構築をどのように行えば良いのか、である.幸い量子アニーリングで標準的に用いられる横磁場による量子揺らぎは、我々のもつコンピュータ資源により、シミュレーション可能である.量子モンテカルロ法と呼ばれる手法を用いて, ある横磁場におけるスピンの状態をサンプリングすることができる.今回はまず量子モンテカルロ法を用いて実証研究を行った.

また我々T-QARDではD-Wave Systems社のD-Waveマシンを利用することができる.このマシンでは横磁場による標準的な量子アニーリングを実行することができる.そのデータを用いて同様の計算を実行して進めているところである.続報は論文の公開とともに紹介する予定である.

written by Shunta Arai and Masayuki Ohzeki